海外不動産を利用したスキームが遂に廃止に…。さてどうする?
2020年の税法改正で「海外不動産運用の所得に関する損益通算」の制度が変更になりました。個人所得の高い人に重宝されていた「海外不動産を利用しての所得税負担を軽減する仕組み」の節税効果がなくなります。まさに、海外不動産の節税メリットを封じ込める改正でした。
目次
海外不動産スキームとはどんな仕組みなのか
この手法の重要なポイントは下記の2つの活用です。
- 日本における「簡便法」による中古物件の耐用年数の算出
- その「簡便法」が海外不動産にも適用される
【簡便法とは?】
不動産の耐用年数の算出には「定額法」が採用されています。たとえば、法定耐用年数が22年の日本の木造建物は、22年間にわたって減価償却費を計上します。ただし、築22年を超えた木造建物を購入した場合には「簡便法」による耐用年数の計算が可能でした。すると、木造建物は耐用年数はわずか4年で計算されているのです。日本の建物は傷みやすく、価値を維持しないと考えられているからでしょう。
<簡便法の算出式>
築22年を超えた木造建物の耐用年数 = 法定耐用年数 × 0.2(小数点以下は切り捨て)
Aさんは1億円で築35年の木造建物を購入(土地2,000万円、建物8,000万円)
購入した物件を貸すことで得られる毎年の家賃収入が300万円
・減価償却費2,000万円/年(8,000万円/4年)
・家賃所得300万円/年
1,700万円の通算赤字を、日本での給与所得とぶつけて損益通算して、個人の課税所得額を大幅に減らすのです。
簡便法が海外の木造建物にも適用されるところがミソだった
簡便法による中古物件の耐用年数の算出は驚くような効果があります。ただし、日本では海外と違って耐用年数を超えた建物の価値はどんどん低くなります。そのため木造建物の法定耐用年数がわずか22年とされているのです。
しかし海外では違います。たとえば欧米では100年以上前の建物が少なくありません。海外では何年経っても建物の価値は高いまま維持をして、建物の価格が不動産価格の大きな割合を占めるのです。その大きな建物割合部分がわずか4年で償却できるわけですから、節税効果が大きくなるのは当然です。
日本は真逆で、不動産価格のほとんどを土地代が占めます。土地部分は減価償却しませんから日本では海外のような大きな節税メリットは出せなかったのです。
欧米の海外不動産は不動産価格に占める「建物」の割合が非常に高いので、日本の富裕層はこの建物の減価償却費が大きいという特徴を利用して節税のメリットを受けていたのです。
海外不動産の税制改正
年収の高い富裕層に人気だった海外不動産の投資スキームでしたが、「令和2年度税制改正大綱」が2020年1月20日から始まった通常国会で可決・成立し、2020年4月1日から施行されて大幅に効果を無くされてしまいました。
【損益通算を認めない】
海外不動産による所得計算で、その収支が赤字の場合でも他の所得との損益通算ができなくなりました。
そのため、日本での給与所得とぶつけて損益通算して、個人の課税所得額を大幅に減らす方法ができなくなってしまいました。
「個人が、令和3年以後の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合において、その年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。」
つまり、海外不動産運用の所得計算において、収支が赤字の場合、減価償却費を損失として計上することは認めないということです。
法人でなら海外不動産スキームは変わらず使える
個人ではなく、法人でこのスキームを活用することで、法人税の節税メリットを受ける方法があります。今回の改正は「所得税の損益通算」に関わるものであるため、法人名義の保有には関係ないという点です。
法人の場合は引き続き簡便法の中古耐用年数による償却ができるので、今後は「法人税の税金対策」として活用していくしかありません。